2015年5月30日土曜日

レイモン・ドメネクの独白を読了した

独白

レ・ブルー(サッカーフランス代表)を6年間率いたレイモン・ドメネク。
彼の指揮した2004年から2010年までのフランス代表は実に多くのジェットコースターを経験するトラブルメイカーのようなチームだった。
数々のサッカー誌を読んでも、彼のマネジメント手腕に疑義があることに疑いはなかったが、ある程度精神的にも落ち着いた時期に、エッセイが出版されるということはサッカーファンとしても、また人生における教訓としても多くの学びがあるに違いないと思い、ついに本書を手に取った。

本書の構成は、事件の起こった2010年W杯の出来事をプロローグ的に紹介し、終幕を描かないまま時系列に淡々と語っていく構成である。

なぜ、プロローグで紹介されたような展開が起こるまでにチームが崩壊してしまったのか。
これをドメネクの視点で彼が内省しながら見つめ直す構成には非常に舌を巻いた。

サッカーフランス代表と言えば、数々のコンテキストがある。
1998年、自国開催でのW杯で優勝を果たし、ジダンというファンタジスタも頭角を現し、今後の趨勢は安泰かと思われたが、2002年日韓W杯では、グループリーグ敗退。
その後、ドメネクが率いた2006年ドイツ大会では準優勝。そして、くだんの2010年南アフリカ大会ではチームが崩壊してグループリーグ敗退。
今だからこそ語れるが、その後ローラン・ブランが後任となったが、現在指揮をとっているのはディディエ・デシャンである。そのデシャンが率いたレ・ブルーは2014年ブラジル大会では躍動感に溢れるチームで非常にたくましいチームであったことは記憶に新しい。優勝国であるドイツに決勝トーナメントで惜敗したが、僕は予選を通じて、ひょっとしたらひょっとすると思っていた。

まあ、その話はおいておこう。

その気持ちはブラジルW杯を総括した次の記事にしたためられている。
2014ブラジルW杯を総括する

で、肝心のドメネクの方だが、本書を読み進めるにあたって、非常に辛かった事にはドメネクにはやはりマネジメントスキルと対人交渉能力に欠けるのではないかという記述がかなりあって、冗長でなかなか読み進まないという事実があった。
本書を読んで、2006年の栄冠を握れた要因としては代表のレジェンドであったジダン・マケレレ・テュラムを呼び戻したことにあるし、彼らにマネジメントを託したからこその成功だった。
2006年で退いていれば、きっとどこか他のクラブチームを率いていたに違いない。
未だにドメネクはフランス代表以降のキャリアがないのは全てを物語っていると思う。

近年のフットボール進化によって、監督に求められる能力は非常に向上している。
ペップやモウリーニョなどの結果を残しているマネージャーのインテリジェンスを見れば明らかだろう。
代表監督は基本的にセレクターであり、様々なクラブの様々な個性をオーガナイズすることが仕事である。彼の発言からは残念ながらここに関するウィットを感じられなかったということが最終的には大きな要因なのではないかと思う。

偶然の産物とはいえ、フランス代表の優秀なアカデミーが輩出した優秀な個性であるアンリやアネルカらが2010年の大きなキーポイントとなり、歯車のわずかなズレの軌道修正がないまま突き進んだ結果の慣れの果てという結果が物語としてものすごく面白みがあった。これは小説ではない。事実は小説よりも奇である。

また、フランス代表の選手達を包み込んだ「空気感」がとても気になった。
空気というと、山本七平先生の著書がすぐに想起される。
個性溢れる面々において、また日本とはカルチャーの異なる集団においても空気感による強制力が発生したという興味深い件は今後も追求していきたいと感じざるを得ない。

とにかく、本書をよむことで一連のストーリーに信憑性をもって結論づける事ができたことは大きい。
またサッカーを見る楽しみが増大した事は喜ばしい事実だし、自身のキャリアを歩む上でも良い参考書となった。
サッカー好きにはたまらない1冊だろう。

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